ワイルダネス 3巻(伊藤明弘) ISBN:4091570739

紀伊国屋書店で査収。以前、BLACK LAGOONの1,2巻を見かけたことがあったが、ワイルダネスは見たことがなかったので、少し前に日本で発売されたBLACK LAGOONの3巻が売ってないかと思って探したもののそちらは無くて、ワイルダネスの3巻が売っていた。よくわからん(´Д`) あ、ちなみに値段は8.25ドル(+TAX)だった。高ぇ(´Д`;)
この作品、素直に面白いと思う。今までのところ、伊藤明弘氏の一番の傑作じゃないだろうかと思う。
恋人の借金を返すためにLAの犯罪組織ブロウトン・ファミリーが仕組んだ銀行強盗に参加する羽目となり、ただ一人生き残ったことから件の組織に追われることになった大学生・芹間喬*1。LAの警官ローゼンマンに警官殺しの罪を着せられ逃亡することになった家出娘・タイラギ恵那*2。ブロウトン・ファミリーと敵対するゴールドスミス・ファミリーと対立したことからLAを放逐された私立探偵・堀田俊夫*3。三人の日本人はメキシコの古ホテルで銃撃戦に巻き込まれ、ともに逃げ出すことになった。一方、恵那の捜索を堀田に依頼した彼のかつての妻でありDEA捜査官であるエノラ・コープランドは、銀行強盗の犯人を追ってメキシコを訪れていた。彼女の捜査には芹間の目撃者であり、実はブロウトン・ファミリーともつながりのあるローゼンマンも同行していた。さらに、ブロウトン・ファミリー、ゴールドスミス・ファミリーともに芹間が持つ情報を抹消すべく殺し屋を放っていたのである。逃亡する者、追跡する者、それぞれの思惑が複雑に絡み合い、メキシコの荒野に銃弾の嵐が吹き起こる。
こんな感じのあらすじでいいですかね。3巻は、3人が逃げ込んでいた館、恵那が以前働いていた映画製作者フォルターメイヤー邸が襲撃されるところから始まる。銃撃戦は定評がある人なので、それについては語るべくも無いが、今回の場面では弾を一発撃つ前の段階から見せ方が非常にクールだった。発砲しない銃撃戦。矛盾するようだが、こういうのも有りなのかもしれないと思った。
以下は、他に思ったことをのべつまくなくランダムに書いていく。

  • メキシコという舞台がいい。そして、背景描写が手抜き無くメキシコ観を醸し出していると思う。メキシコは数時間しか行ったことが無いからはっきりわからんけど。
  • 人がしっかりと死ぬのでスリリング。氏の長期連載「ジオブリーダーズ」と比較しての話。
  • 脇役にもきちんと見せ場がある。台詞も小洒落ていると思った。いくつか抜き出してみる。

「いやいや君の40mmは駄目だ。死のリアリティに欠ける。」
「演出はハッタリだ。それが全てだ。」
「喰らえ怒りのNATO弾!当ると痛いぞ!!」
「お勤め御苦労様。出所祝いです。」
「次に会う時は死体袋に入っていることを祈るよ、ミズ・コープランド。」
「あんたを殺すのにボク以外の人手が要るとは思えないな。悪いけど。」
「お前が嫌いだ!」

  • 小悪党ローゼンマンがおいしいところをかっさらっている。わかりやすい獅子身中の虫
  • 少年の殺し屋"D"。氏のキャラクタで同系統の人物を思いつかなかったので新鮮に感じた。何かをきっかけに豹変する子どもの殺し屋というのは珍しくないかもしれない(?)が、銃の抜き方とか表情とか、非常に魅せるキャラである。
  • 人間関係は入り組んでいるので連載を追うのはつらいかもしれないが、単行本でゆっくり読めばそれほど難しい話ではないのでのめり込める、と思う。
  • 人物の目の描き方が変わった。以前よりも小さくなったような感じ。昔から絵柄が少しずつ変わり続けている作家なのだが、特に表紙の恵那はずいぶん顔が変わったなという印象。

なんだろうな。何で面白いと思うのか、一言に言うならば「地に足が着いたアクション劇」であるところだろうか。銃撃戦は荒唐無稽かもしれないが、舞台となるメキシコやロスアンジェルスを丁寧に書いている(という印象を受けた)ことでリアリティを繋ぎ止める事に成功しているような気がする。つまり、架空の世界が舞台となるアクション漫画に比べて、よりいっそう好感が持てたのだろう。
ところで、ブロウトンがローゼンマンに探させている恵那の持ち物が何なのかはっきりしてなかったと思ったが、やっぱりビデオテープかな?と予想してみたり。

*1:せるま たかし

*2:たいらぎ えな。玉「王兆」恵那。「王兆」で一つの漢字

*3:ほりた としお