鉄鼠の檻 (京極夏彦) ISBN:406181883X

昨年の正月(今年は正月らしいことして

あらすじ:季節は冬。舞台は箱根の山奥にある旅館仙石楼。雪景色の庭に突如現れた結跏趺坐している僧侶の死体。これは「箱根山連続僧侶殺人事件」の発端にすぎなかった。山に現れる成長しない振袖の少女。京極堂も知らなかった謎の寺、明慧寺。そして禅とは悟りとは。複雑に絡み合った謎を解き、憑物を落とすべく京極堂が立ち上がるシリーズ第4弾。
禅宗に関する歴史などそれこそ抹香臭い話が多いのだが、咀嚼して説明されているので思いのほか読みやすい。そもそも読むのは2回目なので、読みやすいと思ったのはそのためかもしれない。6年半以上経って再読した感想は、おそらく最初に読んだ感想と異なるものだ。ラストの展開は、こうするより他はないと言った印象を受けた。悪く言えば、多少強引な結びであるような気がした。箱根についても6年前より身近に感じるようになったし、やはり作品の印象が全く異なる。文章自体はもちろん変わっていない。変わったのは自分である。作品の評価とはかけ離れてしまうのだが、受けて側の状態によって受け取る情報の印象が変わってしまうと言う当たり前のことに気がついた。それが大きな収穫。
姑獲鳥の夏」を面白いと思った人は、この作品は必ず押さえておくべき*1

「そう。思い出さないでいるうちは、得体は知れないまでも甘美で愛おしいものだけれども、思い出した途端に醜い現実に姿を変える──その手のことを思い出したんです」

*1:黙っておいても読むだろうけど